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棚田の再生と野生鳥獣 イノシシ・シカから棚田を守れ! ~岡山県・上山集楽の取り組み~

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こんにちは「鳥獣被害対策.com」の井上です。

先日、岡山県美作市上山にある『上山集楽』を訪問してきました

上山集楽は、岡山県北部の中山間地に位置する、約60ヘクタール(8,300枚)の棚田が広がる農村地帯です。

ちなみに、普通は『集落』と書きますが、『集楽』となっているのは、“楽しいコト・人が集まる場所が田舎(ここ)にある”という、理念を掲げているからだそうです。

今年復元された棚田です。代掻きが終わり、これから植え付けです。

ちなみに、9年ほど前はこんな感じです↓

2006年頃は、だいぶ荒れた里になっていたようですね。(松原さん提供)

今回、なぜ上山集楽に足を運んだのかというと、私の先輩が美作市の『地域おこし協力隊』に参加するために移住したと聞き、実際にその活動や棚田の景観を観てみたい!と思ったからです。

美作市地域おこし協力隊の松原さんです。

いつも前向きで明るく、頼りになる先輩です。

実はこの棚田の美しい景観ですが、地域の方の高齢化と担い手不足によって、数年前までは棚田は荒廃し、ササやクズが生い茂る状況となっていたようです。

これらの植物が繁茂すると、棚田の段々部分は見えなくなり、谷部はのっぺりとした草原のような感じになってしまい、風情はなくなってしまいます。

ちなみに、この山間になぜ棚田ができたのか?というと、どうやら“たたら製鉄(※)”の繁栄に伴って増加した人口の食を支えるために開墾されたのではないかということです。

(※)たたら製鉄:日本古来の製鉄法のことで、土でつくった箱の形をした低い炉に、原料の砂鉄と還元のための木炭を入れ、風を送って鉄を取り出す技術だそうです。

早速、松原さんに集楽を案内していただきました。

まずは、集楽の水源となるため池で、上山集楽の大半の水田は、このため池の水を水源としています。

とても重要な施設とのことで、毎日、つまり等がないか、移住された方々で見回りをしているそうです。

美しい水面のため池。

降雨の少ない岡山県では、ため池の存在価値が重要です。

ちなみに、水路は森の中を流れ下るのですが、維持管理が大変とのことです。

中山間地では耕作地が放棄され、その結果水路が機能しなくなり、斜面が崩れたりするケースが多いのだとか。水路の維持管理は、防災機能の役割も大きいのですね。

水路の維持管理のようです。(松原さん提供)

次に、水田などを見せてもらいました。

やはり、上山集楽も例外ではなく、シカやイノシシといった野生鳥獣の被害を受けており、水田・畑地ともに、金属柵や電気柵、ネット柵などで自己防衛をしていました。

また、防除だけではなく、罠などを活用した捕獲や、猟期には積極的な狩猟により、有害鳥獣管理も実施しているとのことです。

金属柵・電気柵がしっかりと設置されていました。

上山集楽の周辺では、アライグマは確認されていないようですが、

  • シカ
  • イノシシ
  • ツキノワグマ
  • サル

など、様々なけものたちが生息しています。

なかでも、シカは15年ほど前から出没するようになり、近年では定期的に捕獲されるようになっているようです。

また、春先になるとイノシシがタケノコを求めて里地に現れるといいます。

そして、松原さんが管理している水田を見せてもらいましたが、例外ではありませんでした。

電気柵で防除はしているものの、水田内にはシカと思われる足跡が伸びていました。

植え付けた稲は食べられてはいませんでしたが、予備として水田脇に置いていた稲束が食べられていました…。

松原さんの水田を横断する、シカらしき足跡…

一昨年、上山集楽で撮影されたシカです。(松原さん提供)

水田の脇に置いていた、補充用の稲束が被害に…(先端が齧られています)

イノシシも出没します。(松原さん提供)

ちなみに、現在はセンサーカメラを活用して、シカの侵入経路を見つけ出し、電気柵の設置改良を施す予定だそうです。

松原さんは、水田4反を管理しており、集楽では唯一“無農薬”による栽培をしています。

この水田で私は、驚くべき光景を目にしました。

その驚きというのは、水田に生息する“生きものがとても多い”ことです。

畦には1mおきにトノサマガエルがいて、水中にはミズカマキリやコオイムシの仲間、ガムシの仲間といった水生昆虫など、近年ではなかなか見ることができない生きものが所狭しと生活していました。

私の足音に驚き、畦から水田に飛び込んだトノサマガエル。

環境省レッドデータで“準絶滅危惧”に指定されています!

水田内をゆっくりと移動するミズカマキリ。

土の色と同化しているので見えるかな?写真の真ん中あたりにいます。

一方、無農薬なので、害虫となるイネミズゾ ウムシもたくさん発生しているようで…松原さん曰く「これから、気長に退治するよ」といっていました。

イネミズゾウムシは畦から水田内へと侵入するそうです。

松原さんは説明そっちのけでイネミズゾウムシの駆除に取り掛かかっていました。

私も長いこと環境調査を生業にしてきましたが、これほどまでに生きものが多い水田はほとんど見たことがありません。

無農薬栽培が生きものにやさしい環境であるということを、肌身をもって知った瞬間でした。

松原さんは「無農薬でやっていると(虫などに食べられてしまうので)収量は減るけど、味に変わりはないからね」と、収量が減るのは当たり前程度に考えているようでした。

そうこうしているうちに、お昼となり、ちゃっかり松原邸でごちそうになっちゃいました!

松原邸は築100年にもなる古民家で、トタン屋根の内側にはびっしりとワラが積み上げられていました。

とても趣きのある建物で素敵です

軒下から屋根をのぞくと、ワラがびっしり

お昼のメニューは、シカカツにシカシチュー、無農薬栽培のごはん、またご近所さんの梅谷さん夫婦もやって来て、ローストディアーをいただきました。

出していただいたもの、全部がとてもおいしく、満腹・満足!でした。

臭みのない柔らかなシカ肉で、最高!

梅谷さんも昨年度までは、地域おこし協力隊に所属しており、現在は農業のかたわら、地域で獲れた獣の皮を鞣し、皮工芸(レザークラフト)を手がけているそうです。

鹿革は繊維がとびきり細くて丈夫で、東大寺正倉院の鹿革製の品の中には、千年以上が経過しているのに柔軟性が失われず、新鮮な色彩を保つものがあるそうです。

梅谷さん作作成。シカ皮は手触りがとても良く、長く使うことで独特の色艶になるそうです。
焼印もしてくださるそうです。

また、松原さんも農業を営むかたわら、薬草づくりを手がけられているそうです。

これからは、「“半農半X(エックス)”だよね!」と、松原さんは語っていました。

“半農半X”とは、小さな農のある暮らしを営みつつ、エックス=天職を活かした仕事でくらしに必要なお金を稼いでいくライフスタイルのことです。

「百姓」ではなく「百商」なのですね!

食事の後に飲ませていただいた、自家製の『桑の葉茶』は、苦いのかなぁ?と想像したのですが、とても飲みやすくて驚きでした。

松原さんお手製の薬草です。

桑の葉は血糖値の上昇を抑制するので、糖尿病を予防したい方にはおススメです。

最後に、私は“松原さんには、これからも『上山集楽』を盛り立ててもらい、少子高齢化や獣害被害で悩む、集落各地のよい道標になって欲しい…”と願いつつ、上山集楽をあとにしました。

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この記事を書いた人

井上 剛

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