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シカ被害対策の実例|イノシシ用1.2m金網柵に電気柵を追加して侵入を防ぐ方法

シカ被害対策の実例|イノシシ用1.2m金網柵に電気柵を追加して侵入を防ぐ方法

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この記事のポイント:イノシシ対策用の1.2m金網柵では防ぎきれなかったシカ被害に対し、侵入経路を確認したうえで、既存の金網柵の上部に電気柵を増設して対応した事例です。

こんにちは、「鳥獣被害対策ドットコム」の井上です。先日、地域の援農グループのメンバーとともに、管理している畑でシカ対策として電気柵の設置を行いました。

この畑では、数年前からイノシシ被害への対策として高さ1.2mの金網柵を設置していましたが、最近になってニホンジカが出没し、野菜や芽吹いたムギなどへの食害が発生するようになりました。そこで今回は、既存のイノシシ用金網柵を活用し、その上部に電気柵を増設する方法で対策を講じました。

本記事では、今回の対策に至った背景、侵入経路の確認方法、そして電気柵を使う際に押さえておきたい注意点を整理してご紹介します。特に、イノシシ対策用の柵がある状態から、どのようにシカ対策へ対応したのかという経過に沿ってまとめています。

この記事はこのような方におすすめです
  • イノシシ用の柵はあるものの、新たにシカ被害が出てきて困っている方
  • 既存の防護柵を活かしながら対策したい方
  • 電気柵を設置する際の注意点を確認したい方
  • シカの侵入経路をどのように見ていくか知りたい方
  • 農地での獣害対策の実例を知りたい方

1. シカ被害が発生した畑の状況

今回対策を行ったのは、小田原西部の真鶴町との境界付近にある畑です。かつてはミカン畑として利用されていたと思われる階段状の果樹園で、外周は約160mあります。

この複雑な地形にあわせて、畑の周囲には金網柵がしっかりと施工されていました。もともとはイノシシ対策として設置されたもので、高さは1.2mです。

なお、以下の写真は電気柵の増設後に撮影したものですが、畑の傾斜や外周ラインの凹凸が大きく、施工条件が複雑であることが分かります。

電気柵増設後の様子(傾斜があり、外周も複雑な現地)
▲ 電気柵増設後の様子(傾斜があり、外周も複雑な現地)

もともとこの畑では、数年前からイノシシ被害に悩まされていましたが、最近になってニホンジカが姿を見せるようになり、畑に侵入して野菜や芽吹いたムギなどを食害するようになりました。そこで今回は、既存の金網柵を活用しながら、シカ対策として電気柵を増設することにしました。

▲ シカの痕跡(フン)

2. まず行ったのは、柵まわりの確認

シカ対策を行うにあたり、最初に確認したのは、獣がどのように畑へ入り込んでいるのかという点です。

獣が夜間に畑へ侵入しようとするとき、まず疑うのは、地面を掘り起こして穴をつくり、そこから出入りしようとすることです。大きな穴が最初からできるとは限らず、タヌキやアナグマが小さな穴を掘り、それが徐々に広がってイノシシが使うようになり、最後にはシカが出入りするということもあります。

そのため、まず最初に実施したのが「地際チェック」です。柵の周囲をくまなく点検し、獣が出入りしている痕跡がないかを確認しました。

この点検作業は、今回の対策を考えるうえで非常に重要な確認でした。

点検の結果、柵の周囲には、獣が出入りしている様子は見られませんでした。柵の下から入り込んでいる形跡がなかったため、次に疑ったのは、柵の乗り越えです。

3. 柵の変形から、シカの侵入を疑った

通常、ニホンジカ対策の柵は1.8m以上が必要とされています。一方、この畑の柵はイノシシ対策用として設置したもので、高さは1.2mです。そのため、シカ対策としては高さが足りません。

そうした視点で柵の周囲を確認したところ、金網柵の上部が畑側に折れ曲がっている箇所と、逆に畑の外側に折れ曲がっている箇所を、それぞれ1か所ずつ見つけました。場所はいずれも畑の南西側で、近い位置にありました。

畑側に折れ曲がっている箇所は、畑の外から内側へ侵入した際に、シカの体が金網柵の上部に触れて折れ曲がった可能性があります。反対に、畑の外側へ折れ曲がっている箇所は、畑の内側から外へ出た際の脱出口である可能性があります。

このことから、おそらくこの付近を出入り口として、シカが畑へ侵入していたものとみています。

4. 今回行った対策は、金網柵の上への電気柵の増設

このような侵入の状況から、今回の対策方法として採ったのは、イノシシ用金網柵の上部に電気柵を設置することでした。

ちょうど、倉庫には以前イノシシ対策で使用していた電気柵の資材が残っていたため、それを活用しました。

つまり今回は、イノシシ対策として設置していた金網柵をそのまま活かし、その上部に電気柵を追加する形で、シカの侵入を防ごうとしたものです。

今回使用した本機は、ソーラータイプの電気柵本機です。ソーラー式のため、電源管理がしやすく、現場でのメンテナンスの手間を抑えやすい点があります。

また、この本機の獣害対策用途としての推奨延長距離は、1段張りで800m、2段張りで400mです。今回の畑は外周約160mのため、今回のような設置規模であれば十分に対応できる範囲でした。

今回使用した本機の写真と商品ページは、以下に掲載しておきます。

▲ 今回使用したソーラータイプの電気柵本機

ガラガーミニソーラーS16x 電気柵本体(ソーラー・バッテリー・アース付き)

ガラガーミニソーラーS16x 電気柵本体(ソーラー・バッテリー・アース付き)

5. 電気柵を使う際に押さえておきたいこと

電気柵は、獣害対策の中でも、使い方が重要な資材です。正しく利用しないと、かえって効果が出にくくなることもあります。

ここでは、今回の対策とあわせて、電気柵を使ううえで重要になる点を整理します。

5-1. 電気柵は、触れたときにだけ電気が流れる

電気柵は、一般的な家庭の電気回路とは異なり、動物が触れるまで回路が閉じない仕組みです。つまり、動物が触れるまでは電気が流れません。

動物が電線(柵線、ワイヤー)に触れると、その体が電線と地面をつなぐ導体の役割を果たし、その瞬間だけ回路がつながって、一瞬だけ電流が流れます。その結果、「バチッ」という電気ショックが発生します。

この不快な経験によって、動物に「この柵は危険だ」と覚えさせ、近寄りにくくするのが電気柵の基本的な仕組みです。

5-2. 大切なのは、獣毛のない部分にしっかり触れさせること

電気柵は、動物が触れれば必ず十分に効果が出るわけではありません。しっかり感電させるには、獣毛のない部分に電線を触れさせる必要があります。

たとえば、次のような部位です。

  • 鼻先
  • (イノシシ、シカなど)
  • 肉球(クマ、アライグマ、ハクビシンなど)
  • 手のひら(サル)

反対に、獣毛のある部分だけが触れても、十分な電気ショックにならないことがあります。

そのため、電気柵では「しっかりと感電させる」ことが重要になります。

5-3. 最初の接触で通電していることが重要

動物は、初めて見るものに対してまず警戒し、安全か危険かを見極めようとします。その際、多くの動物は鼻先などを使って確かめます。

電気柵は、この行動に対して、触れた瞬間に電気ショックを与えることで、「危険だ」と覚えさせる対策です。

一方で、最初に触れたときに通電していなかったり、漏電していたりして、電気が流れていない状態だと、「これは危なくない」と認識されてしまうおそれがあります。そうなると、電気柵の隙間から侵入されたり、飛び越えられたりする可能性があります。

そのため、電気柵は、動物との最初の接触の時点で、きちんと通電していることが重要です。

電気柵について、より詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になります。なぜ24時間連続通電が重要なのか、また漏電対策が必要なのかについても詳しく書かれています。

電気柵は設置初日に必ず通電!効果を出す2つの鉄則と失敗例

6. 今回の設置方法

この畑に設置されている金網柵は、高さ1.2mです。シカ対策用の柵として考えると、あと60cmほど高さが足りません。

ただし、今回は電気柵の資材に限りがあったため、金網柵の上に2段の電気柵を設置しました。

ここで問題になるのが、電線の間隔です。足りない60cmを2本の電線で補おうとすると、単純に考えれば30cm間隔ほどになります。しかし、間隔が広いと、その隙間にシカが頭を突っ込んでしまう可能性があります。

隙間に頭を突っ込まれると、獣毛のある部分だけが電線に触れ、十分な電気ショックが得られないおそれがあります。そのため今回は、電線の間隔を少し狭め、約10cm間隔で設置しました。

このように、高さを補うだけでなく、シカが触れたときにしっかり通電しやすいようにすることも意識して設置しています。

赤点線が今回増設した電気柵2段
▲ 赤点線が今回増設した電気柵2段

また、電気柵を設置した場合は、このような「きけん表示板」の設置も必須です。
電気柵が張られていることを周辺住民や通行者に分かるようにし、注意喚起を行うためです。

当店では、表示板は基本的に100m間隔に1枚を設置の目安としています。
ただし、人通りの多い場所や、人が立ち入りやすい場所では、必要に応じて追加で設置することをおすすめしています。

電気柵設置後に取り付けた「きけん表示板」
▲ 電気柵設置後に取り付けた「きけん表示板」

設置後は、実際に柵線へ十分な電圧がかかっているかを確認するため、テスターで電圧を計測しました。
今回の計測では、5,900Vを確認できており、設置直後の時点では十分な電圧が出ていることを確認できました。

電気柵設置後の電圧確認(5,900Vを計測)
▲ 電気柵設置後の電圧確認(5,900Vを計測)

当店では、獣害対策として電気柵を使用する場合、柵線に4,000V以上流れるような設置・運用を推奨の目安としています。
ただし、雨天時などは雨水による漏電で電圧が下がることがあるため、通常時に5,000V以上を保てていると、より安心です。
その点、今回は5,900Vを確認できているため、通常時の目安としても十分な電圧が確保できている状態でした。

今回使用したテスターは、デジタル表示で電圧を計測できるため、電気柵の点検用として使いやすい製品です。設置後の確認や日常の見回り時に、1台あると便利です。

デジタルボルトメーター(DVM-3)

デジタルボルトメーター(DVM-3)

7. 設置後も、これで終わりではない

ただし、電気柵を設置したからといって、現時点で必ず成功するとは限りません。

今回この畑に出没しているシカは、柵を飛び越えて侵入していると考えられます。そのため、電気柵の存在を無視して、今回も飛び越えられてしまう可能性はあります。

そのため、進入口と思われる場所にはセンサーカメラ(トレイルカメラ、自動撮影カメラ)を設置し、この電気柵の対策がうまく機能するかどうか、様子を見ることにしました。

もし飛び越えられてしまうようであれば、次のような追加対応を考えています。

  • 電気柵の段数を追加して、さらに高くする
  • 電気柵部分を畑の外側へ張り出すように角度をつける

ここからは、設置後の様子を見ながら、必要に応じて対応を重ねていくことになります。

8. 設置後に判明した課題

ただ、設置後の確認の中で、すでに一つ課題も見えてきました。設置時に支柱が足りず、一部の区間には電気柵を設置できていなかったのです。

早めに対応しなければと思っていたところ、その後、メンバーから連絡があり、電気柵のない区間から入り込まれた痕跡があるとのことでした。

つまり、今回の対策では、電気柵を設置できていない部分が残っていたことで、そこが実際の侵入箇所になった可能性があります。

この区間については、早急に追加で対応する必要があります。

9. まとめ

今回のシカ対策では、まず柵の周囲を確認し、地際からの侵入ではなく、柵の乗り越えによる侵入の可能性を見たうえで、イノシシ用金網柵の上部に電気柵を増設しました。

今回のポイントを整理すると、次の通りです。

  • 最初に地際チェックを行い、柵の下からの侵入痕がないかを確認した
  • 金網柵上部の変形から、シカの侵入・脱出の可能性を確認した
  • 既存の1.2m金網柵の上に、2段の電気柵を追加した
  • 電線は約10cm間隔で設置した
  • 電気柵は、最初の接触できちんと通電させることが重要
  • 実際には、未設置区間から侵入された痕跡が見つかった

今回の対策は、これで完了というわけではありません。シカに飛び越えられる可能性も含め、今後も様子を見ながら、必要な対策を重ねていくことになります。

まさに、ここからが、本当の意味で人とシカとの知恵比べの始まりです。

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この記事を書いた人

井上 剛

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