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地域ぐるみの猿対策~群れ把握と地図作り

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こんにちは「鳥獣被害対策.com」の小野です。

平成24年~26年の3年間、和歌山県に通い、みかんの段々畑が広がる山間地域で、獣害対策のお手伝いの仕事をしました。

・対象となる山間地域の様子です

・今回、被害にあったミカンです

この地区では、イノシシと猿被害が顕著でした。

イノシシについてはトタン柵で被害防止をしているものの、老朽化が進んでおり、ところどころにイノシシの侵入経路ができていました。

・イノシシはこのような場所から侵入します

また、猿については通常のフェンスや電気柵では防ぎきることが難しく、大きな課題となっていました。

猿は、電気柵を設置しても、その畑に執着している場合、電気が流れていない電気柵の支柱を登って、侵入してしまいます。

猿を防ぐ柵については、こちらのブログと商品ページで紹介しています。

★サル被害に有効!おじろ用心棒(防護柵)の設置
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/4803
★おじろ用心棒スプリング式 200mセット
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/fence/sd0001

平成24年の冬に、初めてこの地区に入り、対策計画を依頼していただい町役場の担当者と打ち合わせを行い、3年間をかけて、地域ぐるみで猿被害対策、捕獲の取り組みを行う体制づくりを行う、という目標を立てました。

順を追って、この取り組みを紹介したいと思います。

群れで出没し、畑の果実や野菜に被害を及ぼす猿は、集落の人たちにとって、頭の痛い問題でした。

猿は作物のもっとも美味しい部分だけを食べ、少しかじっては捨てていきます。

食べられる数はその分増えるため、被害は大きくなります。

・猿によって食べられたミカン

また、頭の良い猿は、昼食を食べに農家の方が家に帰るタイミングを見計らって、畑へ出没したり、猟師さんの車の音を覚えていて、その車が来たらすぐに逃げ出すなど、人の行動をよく観察し、人の隙をついて被害を及ぼします。

猿に被害を受けた畑の持ち主は、個々に花火を撃ち、また猟友会からの協力を得て捕獲することで、被害対策をしていました。

しかし、この地区周辺に

  • “どれだけの数の猿が棲んでいるのか”
  • “どの群れが被害を及ぼしているのか”

ということが分かりませんでした。

そのため、適切な対応が十分に図れておらず、被害は減らないのが現状でした。

『猿対策』は、

  • 防護柵の設置
  • 猿を集落に引き寄せる不要作物の除去
  • 共同での追い払い
  • 加害個体の捕獲

により実施します。

地域ぐるみで対策を進めるため、まずは

  • どれくらいの猿が集落の周りに生息していて
  • どこで被害が起きているか
  • 猿を誘引する不要作物がどこにどのくらいあるのか

これを、一つずつ把握するところから取り組みが始まりました。

まずは、猿の行動を把握するため、猟友会に協力してもらい、猿を捕獲してVHF発信機を装着します。

放獣した猿は、その後すぐに群れに帰り、この地区の周りを動き始めました。

この猿の群れの行動圏を把握するための調査は、継続的に実施することを狙い、役場職員と農家さんで実施していただくこととしました。

私たちのような、企業に調査を委託し、継続的に実施すると、それなりの費用もかかり、なかなか継続することができません。

そのため、私たちはマニュアルを作成したり、講習を実施するなどのサポートを行いました。

その後、2年間の継続調査で、猿は以下のように行動していたことが分かりました。

紫と赤の点は発信機を装着した猿の測位点、薄い紫と赤の囲いはそれぞれの行動圏、囲いの中の線は群れの想定移動ルートを示します。

図 猿の行動圏
(最外郭法にて作成後、明らかに行動圏となっていない市街地を除き、目撃情報をもとに範囲を修正したもの。行動圏調査をしていない地区外については、より遠方まで行動圏が広がっている可能性があります)

地区の市街地を挟むように、南北から2つの猿の群れがこの地区に出没し被害を及ぼしていることが明らかになりました。

実際に、農家さんの話によると、地区の東にある集合農地を境に、南北の2つの猿の群れが鳴き合っているのをたびたび確認しているなど、地元の農家さんの実感にも合致した行動圏図でした。

また、農家の方からは「作成した図を見て、もっと多くの群れがいるかと思っていたら、2群れだったのか」といった意見もあり、これから何らかの対策をしていけば防げるのではないか、といった声も聞かれるようになりました。

次に、被害状況や耕作放棄地を把握するため、被害地、耕作放棄地などの位置図の作成を行いました。

具体的には、最初に地区の公民館に集まり、地域の地図を広げ、農家の方々に猿またはイノシシに被害を受けている耕作地、放棄されている耕作地の場所にシールを張っていただきました。

その後、車で地区内を回り、イノシシや猿の痕跡状況やヒアリング結果から、被害耕作地と耕作放棄地の位置を地図に記録しました。

農家の方々に、猿やイノシシの被害を受けている耕作地、あるいは放棄されている耕作地の場所の情報を集めていただきました。

このような情報に加えて、イノシシや猿の痕跡状況やヒアリング結果を加味し、被害耕作地と耕作放棄地と位置を地図に記録しました。

以下の図は、完成した被害状況と耕作放棄地の地図です。

  • 赤色:イノシシまたは猿による被害地
  • 黄色:耕作放棄地
  • 水色:被害のない耕作地

そして、猿の行動圏図と重ね合わせると、以下のようになります。

このような図ができると、皆が集まる定例会での議論は、一層活発化します。

  • 「このあたりのミカン畑は、いっつも同じ群れにやられていたのか。」
  • 「この畑は、猿にとってはかなりのエサ場になっているな。」
  • 「あの山の中腹のミカン畑は、もうずっと前から放棄されていて、確かにあの辺で猿が良く鳴いとる。」
  • 「中腹のクリの木もよく餌場になっとる。」
  • 「夏に、いつもこの畑の脇のビワが実って、よく猿が食べに来とる。あれを切れば、だいぶん違うんとちがうか。」

目の前に地図があると、地域の農家さんも前のめりになって、いろいろな猿、イノシシの目撃談が飛び交います。

定例会ではそのような情報を整理して、図に書き込み、今後の放棄地や不要果樹の伐採計画を作りました。

また、別々に実施されていた花火による猿の追い払いも、なるべく協力して、追い払う方向を決め、群れを山に押し戻す取り組みが進められるようになりました。

このお仕事では、それまで個別に捕獲と花火による追い払いとしていた対策から、猿の群れ数と動きを把握し、猿をおびき寄せる要因を地域ぐるみでなくしていき、また協力して追い払いを行う体制を作るお手伝いをすることができました。

加えて、猿用の防護柵についても紹介し、“猿を寄せ付けない畑”をつくることができました。

詳しくはこちらのブログをご覧ください。

★サル被害に有効!おじろ用心棒(防護柵)の設置
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/4803

多くの中山間地では、高齢化が進み、耕作放棄地も増えています。

すべての地域でこのような取り組みを進めることは簡単ではありませんが、行政と協力をさせていただきながら、少しでも地区の獣害を減らしていければと思います。

このお仕事では、ほかにも様々な取り組みをしています。

これらについては、順次、このブログでご紹介できればと思います。

関連ブログ

★サルとシカの被害対策はなぜ難しいか?~防護柵を設置する
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/1161
★サルとシカの被害対策はなぜ難しいか?~獣たちが近づきにくい集落をつくる
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/1220

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★猿被害の現状と対策⇒
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/description-monkey

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この記事を書いた人

小野 晋

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