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ツキノワグマから田畑を守る~鳥獣被害対策の『講習会:クマ編』から~

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クマ被害について書かれた最新記事(最終更新日:2023/9/1)は以下よりご覧ください。
【熊被害2023】秋に増加するクマの被害に備えよう(主要都道府県クマ出没情報リンクあり)

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こんにちは「鳥獣被害対策ドットコム」の唐橋です。今日の鳥獣被害対策の知恵袋は、鳥獣被害対策講習会の記事の3回目です。

イノシシ、シカと続き、今回はツキノワグマ(以下、「クマ」ということもあります)の講習会についてご紹介いたします。

<過去の記事はこちら>
「鳥獣被害対策の『講習会:イノシシ編』を実施しました」
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/4885

「鳥獣被害対策の『講習会:シカ編』を実施しました」
https://www.choujuhigai.com/blog02/archives/5107

クマ対策の基本は「獲る」よりも「防ぐ」

これまでのイノシシやシカ対策のお話しでは、動物を寄せ付けない環境づくりや、電気柵などの侵入防止対策といった『防ぐ対策』と、増えすぎた動物に対しては個体数を適切に保つための『獲る対策』を並行して行うことが重要であると、お話ししてきました。これは、獣害対策の基本的な考え方になります。

ただし、“クマ”については、イノシシやシカとは異なり、『獲る対策』は、慎重な判断が必要とされています。

この慎重な判断とは、クマを捕獲するのには危険を伴うということもあるのですが、クマは全国的にみると、生息数は少ない状況にあります。そのため、地域によっては『絶滅のおそれのある野生動物』として取り上げられ、保護の対象となることもあるからです。

なお、現在、絶滅のおそれのある野生動物として、ツキノワグマを取り上げている都道府県は、下図に示すとおりです。このうち、九州のツキノワグマは、既に絶滅したとされています。

また、下図で示した地域のほかにも、環境省が下北半島をはじめ、各所地域の地域個体群を『絶滅のおそれのある地域個体群』として指定しています。


参考:日本のレッドデータ検索システム
ツキノワグマの都道府県のRDB指定状況
http://www.jpnrdb.com/index.html

そのため、講習会でもツキノワグマについては、主に『防ぐ対策』についてご説明しています。

ツキノワグマの分布と生息個体数

それでは、まずツキノワグマの分布と生息個体数についてのお話です。生息分布は、本州・四国と広く、近年一部の地域では拡大傾向にあります。

しかし、イノシシやシカのように、全国的に生息地域と数が増えている種とは違い、地域によっては個体数が激減し、捕獲が禁止されているところもあります。

そして、生息地域が拡大している地域についても、この拡大の要因が、生息個体数の増加によるものなのか、あるいは生息個体数はさほど大きな変化はないのに、行動エリアの変化によって分布が拡大しているのか、その実態がなかなか把握できないのが現状です。

最近、人里近くに出没するクマを「新世代クマ」などと呼んでいますが、彼らは餌が無いから里に降りてくる、といった端的な理由で里に出没するわけではないようです。いずれにしても、クマの生息地域は山間部を中心としているため、生息の詳細がつかみづらく、慎重な調査が必要とされています。

画像:鳥獣被害対策ドットコム「クマの分布図」

また、生息個体数について、環境省の推定では国内に生息するツキノワグマは15,000頭程度であるとしています(2008年時点)。

イノシシの推定生息個体数が88万頭(2011年度)、ニホンシカ(エゾシカを除く)の推定生息個体数が261万頭(2011年度)なので、ツキノワグマの生息個体数は明らかに少ないことが分かります。

クマによる被害の現状

次に、クマによる被害の現状についてのお話です。

クマによる農業被害は、主に果樹や野菜、飼料作物(デントコーンなど)の被害が多いものの、被害金額は小さく、2014年度では全体の2.5%で、イノシシやシカに比べるとそれほど大きくありません。

しかし!クマによる被害の大きな特徴として、人身被害があります。クマによる被害は、例年、全国で50件前後の被害が発生、大量出没年と言われる年には100件を超えることもあります(下表参照)。


※環境省ホームページ『クマの人身被害件数(速報値)』を元に作成

クマによる被害は、山菜採りやキノコ採り時に、遭遇してしまったりといった人間がクマの生息エリアに入り込むことによって起こることが多いです。

ただし、クマのエサが不足する季節になると、クマの行動範囲が広がったり、または里山の環境変化や過疎化などの影響で、クマの行動と行動範囲が変化しているということも、被害発生の原因となっています。

また、グラフをご覧いただくと、平成22年や平成26年については、他の年度と比較して、突出して多くなる「大量出没年」になっているのが読み取れます。

この大量出没の詳細なメカニズムは、まだ解明されてはいませんが、ブナなどの堅果類の豊凶が関係しているといわれています。

クマの生態

クマはどのような動物なのでしょうか。簡単にポイントをまとめました。

食べるもの

基本的には、植物食中心の雑食性です。

  • ドングリ
  • モミジイチゴ
  • 新芽や葉
  • アリ
  • ハチミツ

など、季節によって利用する食べ物が大きく変化します。

行動

群れは作らず、単独で行動します。

行動圏は生息地域や密度によっても異なりますが、30~50k㎡という記録もあり、非常に広いエリアで活動します。

冬眠をします。冬眠時期は冬季(12~4月)で、木の洞や岩穴などを利用して冬眠をします。

メスはこの間に出産をします。出産は2~3年に1回、平均産子数は1.7頭です。毎年繁殖を繰り返すイノシシやシカと比較すると、出産回数や平均産子数が少ないため、個体数が増えにくい動物であるといえます。

このような背景から、被害を減らすために、捕獲するという行為に対しては、慎重な判断が求められます。


写真は冬眠明けのクマです。中央左側のブナの木の根の下に、根上がりでできた空洞があり、そこで冬眠をしていました。

4つのクマ対策

それでは、前置きが少々長くなりましたが、主に農地や集落周辺など、人の暮らしの中でのクマ対策について、以下をご参考にしていただければと思います。

内容は、次の4つに分けてご説明します。

  1. 生息・被害状況の把握
  2. 集落周辺の環境づくり
  3. 侵入防止柵の設置
  4. 追い払いの実施

1)状況の把握について

まずは被害の現状を把握しましょう。

  1. どこに・どのくらい、クマがいるのか (=生息状況)
  2. どこに・どのくらい、被害があるのか (=被害状況)

事前に、この2つを知ることで、対策機材の有効活用や、効率的な被害対策を実施することができます。

クマの生息状況については、生息地域が山間部を中心としているため、正確に把握することは難しいのですが、痕跡や自動撮影カメラなどによる個体確認が参考になります。

まずは、集落や里山内でクマが残した痕跡(足跡など)を探し、場所や数、痕跡の種類を記録します。その傾向を読み取ることで、生息・被害状況を把握するという方法です。

痕跡の数が多い場所ほどクマが多く出没していることが分かります。クマの痕跡については「鳥獣被害対策ドットコム」をご参照ください。

◆痕跡から動物を特定する (痕跡一覧)
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/konseki

このような痕跡のあるところで自動撮影カメラを使うと、エサさがしなどの行動や、利用する時間帯、親子連れか単独かなどの詳細を知ることができます。

さらに、農地周辺で調査をすると、どこでどの作物が食べられているのか、どこから入って来るのか(けもの道)などが分かります。自動撮影カメラは「鳥獣被害対策ドットコム」でも取り扱っております。

◆自動撮影カメラはこちら
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/camera

また、自治体のホームページで生息状況や目撃情報が公開されている場合もあります。まずは、お住いの都府県や市町村のホームページを確認してみましょう。

続いて具体的な対策についてご説明します。

防ぐ対策」の基本はイノシシやシカと同じです。

  1. エサがあると思われないようにする → 2)集落周辺の環境づくり
  2. あっても食べられないようにする → 3)侵入防止柵の設置

この2つに尽きます。

2)集落周辺の環境づくり

理想はクマが集落に近づくことがなく、人とクマの住み分けができていることです。

なぜ、集落周辺にクマがやって来るのかというと・・・やはり食べるものがある、というのが大きな要因です。そのため、クマが食べるものを食べられる状況に放置しないことが、対策としては重要です。

環境づくりのポイントとしては、次のようなことがあげられます。

  • 集落周辺の果樹やクリの木は、実がなったら残さず収穫する。
    誰も利用しない木は、伐採してしまうのも一つの手段です。
  • 生ごみや不要な農作物はしっかりと処理する。クマは、ペットのエサなども食べることがあります。
    このように、クマが食べるものを放置することは、クマにエサを与えていることと同じ行為となってしまいます。
  • コンポストやゴミ収集場所を狙う場合もあります。
    集落周辺にクマが生息していたり、出没が確認されている場合は、集落と山林の際の設置を避けたり、クマが開けられないように、改良されたゴミ箱を使うなどして対策をすることが必要です。

※さらに、集落周辺の藪の刈り払いなどを行うと、見通しが良くなって、クマが身を隠しながら移動することができなくなるため、集落に近づきにくくなります。

3)侵入防止柵の設置

果樹園や畑、養蜂場などでは、侵入防止のための柵を設置しましょう。
クマを対象とした侵入防止柵を設置する場合には、次のことを念頭におく必要があります。

  • 力の強さはピカイチ
    人力で設置した金属柵は強度が足りません。 そのため、金属柵を使用する場合は、強固な金属柵にするため、重機で基礎を打つ必要があります。
  • 両手足を器用に使い、木登りも得意
    通常の金属柵は登ってしまいます。

以上のことから、クマの侵入防止には『電気柵』をメインに考えるのが効率的です。

ちなみに、電気柵は『心理柵』と呼ばれています。金網柵やネット柵とは異なり、電気柵は動物の体に通電させることでショックを与え、田畑に近寄らせないようにします。

クマに「これに触れると“痛いぞ!”」ということを教え込ませるのです。つまり・・・電気に触れることの恐怖を、心理的に訴える柵なので、『心理柵』と呼ばれるのです!

ちなみに、電気柵の設置は、対象とする動物の種類によって、電気を流すワイヤーの張り方(本数や高さ)を変える必要があります。クマの場合は、地面から20㎝間隔で2~3本張るのが一般的です。


鳥獣被害対策ドットコム」から引用

このイラストのように、電気を通しやすい鼻先の高さにワイヤーを張るのがポイントです。

また、設置後は点検・補修などの維持管理が必要になります。点検は、電圧が少なくとも4000V程度は十分にあるか、漏電していないか、修理が必要な場所はないか、侵入された形跡はないか…など、こまめに行いましょう。

電気柵の仕組みや設置、管理については「鳥獣被害対策ドットコム」に詳しい説明があります。
ぜひご覧ください。

◆効果的な柵の設置方法(電気柵設置の注意点)
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/denkisaku_setti

また、電気柵については「鳥獣被害対策ドットコム」にて様々な種類を販売しています。

◆クマ対策用電気柵はこちら
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/bear-package

4)追い払いの実施

集落へやって来るようになってしまったクマに対しては、「追い払い」が効果的です。具体的な方法は、地域でクマの生息状況や被害状況は異なりますので、専門家の意見を聞きつつ、各地の現状に合わせて考える必要がありますが、一般的には打ち上げ花火や犬などを使うことが多いです。

野生動物を寄せ付けない環境づくりや追い払いなどの対策は、集落単位で協力して実施することがとても大切です。例えば、福島県のホームページでは、会津地方におけるツキノワグマ対策の中で行われている追い払いの実施と注意点について説明があります。

福島県ホームページ
会津地方におけるツキノワグマ対策
~理解することで対策効果を上げる考え方や
その手法~(平成26年1月)【全40頁】
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/54716.pdf

まとめ

以上がクマの対策の講習会の内容になります。講習会の開催については、参加者の方や講習会の開催時間に合わせた講義内容やプログラムをご用意いたします。

ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。次回はサル対策について、お話ししたいと思います。

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★クマ対策商品は⇒
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/c/bear

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